2025/07/31

会ったことのあるフィクション

 東京で出会った彼女は、私より24歳上だった。

親子ほど年が離れているのに、彼女は妙に少女っぽくて、ちょっと痩せすぎていた。

だけど、可愛い。若い頃は相当綺麗だったんだろうな、と思わせる何かがあった。


「関西の方ですか?」と聞くと、

「ちがうちがう。でも大阪でも働いてたことあるねん」

と、ふわっと笑う。


「東京には仕事で?」と聞くと、

彼女は笑いながら、でも目だけは遠くを見てこう言った。


「いややわ、男を追いかけてきたに決まってるやん」


それが、すごくかっこよかった。

噂によると、その男とやらは俳優らしい。


詳しくは聞かないけど、彼女はいつも断片的にドラマなような恋を話す。


結婚してた男にお金を使い込まれてて、離婚裁判が大変だったとか。


周りの男性に最近なんか綺麗だねと言われて、

年下の男から妙なアプローチを受けてて、かなりその男を気に入ってるとか。その男が頻繁に会いたがらないのもまた良いとか。


次会った時に、年下の男とはどうなったんですか?って聞いたら

「なにそれ?なんの話?」

と本当に忘れているのか、思い出したくないことがあったのか忘れたような反応をされた。


転職に成功したって言ってたから、

ちょうど自分のドリンクが無くなったので、お祝いで一杯ご馳走しますと言って、ご馳走させてもらった。


親子ほど年下の私に“悪いね”って言うけど、2回くらい次は払うねって言ったのに、いまだにその“次”は来ない。


でもまあ、地獄から這い上がってきた女って、だいたいそういうもんかもしれない。


ずるくて、ちょっとだけ、かっこいい。

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