2025/07/30

工業用アルコール劇場

物件紹介の仕事をしてた頃、電話を取った。

店舗を探しているので広告をみてたまたま電話をしたと言うおじさんだった。


とりあえず、どんな条件で探しているかヒアリングし、また連絡をすると言って切った。


私は勤めて間も無く、そんなにたくさんの仕事がなくて暇だったから、そのおじさんに2回くらい営業の電話を掛けた。


そしたら、ある日突然会社に来た。

おじさんは一人店主の小さな酒場をやっていて、移転したいと言っていた。

そして、コンサルの先生が12月にこの方角の地域に店を構えろというからそれに従うと言っていた。


こんな小さな店でコンサル?

人を数人雇うようになってから入れた方がいいのでは?と思ったが、適当に聞き流し、とりあえず希望条件の店舗を提案した。


手続きのために何度か会った。

ある日、おじさんは

「なんか悩み事とかある?」と聞いてきたので、

「まあ、それなりに。」と適当に返した。

そしたら、このコンサルの先生いいよ。と名刺をくれた。

あとでその名刺のQRコードを読み込むと、占い師のHPに繋がった。

しかも、系にクリスタルをぶら下げて運命を読むというかなり怪しいものだった。

YouTube動画もあり、明らかに手で揺らしているのに、揺れてる揺れてる!って占い師が騒いでいる動画もあった。


ああ、おじさん、騙されてる。と、思った。


そのおじさんはおもしろい男性だった。

若い頃は、九州のリフォーム会社に勤めていたらしい。

新入社員に犯罪者顔の男性が入社してきたので、よく営業に連れて行って

「こいつ、最近ムショから出てきたんです。

おめえ何やったんだ?ああ?放火か!」

と言うと客は怯えてみんな契約してくれたと言っていた。


そして、おじさんは若い頃に付き合っていた女性が居たが喧嘩して別れてしまったという。

そして、その女性は妊娠していたけど、おじさんに告げず、一人で出産し、知らぬ間に息子がいた事を最近知ったと言っていた。


見知らぬ息子はある街で寿司屋になっていたらしい。

どうしても会いたくて、会いに行ったらしい。

店に入るなり、いきなり、

「お前の父親だけど、たかし(仮名)か?」

と聞いたけど、寿司屋の男には人違いだと言われて、気まずくなってすぐ店を出てしまったらしい。


後日、よく見たら違う寿司屋に行ったことに気づいたと言っていた。


おじさんの居酒屋にはアル中の客がよく来て、

みんな手が震えていると言っていた。

「工業用のアルコールみたいな酒しかださないからね!」

と、笑っていた。


だからおじさんが華々しく店をオープンしても行かなかった。

再開発で家賃が上がったのか、チェーン店に押し出されたのか、

気づいたら、おじさんの居酒屋は消えていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿

気軽にコメントどうぞ。
返事はしません。でも、読んだら笑うかも。