私の通っていた女子校は、古風な校風だった。
お昼の食事は、原則としてお弁当。
だけど私は、よくカップラーメンを持っていった。
机をくっつけて、7人くらいでご飯を食べていた。
みんな母親の気配が詰まったお弁当を開く。
私は一人、お湯を注ぎ、「さて」とカップ麺に手を伸ばした。
「おいしそう」「いいなあ」
犬がおやつを見るような目。
つい「ひとくちいる?」と言ってしまった。
すると、5人くらいが「私も」「私も」と手を出してきた。
最初にひとりにあげた手前、ダメとは言えず、
私のカップ麺は、女たちの口元を順に回っていった。
その時間が、とても長く感じた。
じっと待つしかない。手持ち無沙汰のまま、私の麺は冷めていく。
私は、本当に仲のいい子となら食べ物の共有も気にしない。
でも、顔見知り程度の子たちに順番に食べられるのは、正直、嫌だった。
それに、カップ麺なんて、5人に配ったらもうほとんど残らない。
ようやく戻ってきたカップ麺は、ぬるくて、スープは薄まり、麺は少なかった。
ひとくちあげただけだけど、食べた気がしなかった。
だけど1人だけ、返してくれた子がいた。
「もらったから、私のお弁当食べて」と。
断ったが、押しつけられた。
シャケフレークが乗ったごはんは、他人の家庭の味と雑菌の味がした。
おいしくなかった。でも、返すという心だけは、うれしかった。
そしてもう一人、唯一「欲しい」と言わなかったのがTちゃんだった。
彼女は、自分の大きな家でパジャマパーティを開くような子。
みんなにお土産を配るような子。
私は呼ばれたことがなかったけれど、
その日、彼女が「いらない」と言ったのは、遠慮でも、プライドでもなく、
思いやりだったんじゃないかと思う。
ひとくちちょうだい。
時にそれは、暴力になる。
私も食いしん坊だからわかる。
でも、“ひとくち”は、“信頼”とセットじゃなきゃいけない。
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