昼寝してたら怖い夢をみた。
夢の中で、私は結婚した。
ツアーで訪れた南スペイン、アンダルシアのまぶしい街で、
偶然出会った日本人のハイスペックな男。180cm、金融系、高学歴、保険証持参。
ラブラブというほどではないが、彼は私を好きだと言い、私は「まあ、試してみてもいいか」と思った。
好きだったかどうか、正直よく覚えていない。たぶん好きだった。でも信じきれなかった。
婚姻届は簡単だった。
ツアー中の宿の近くにある日本大使館に行って、数枚の書類を出しただけ。
結婚は驚くほどスムーズで、だからこそ怖かった。
変わるはずの何かが、何も変わらなかったから。
彼は旅行中、私を食事に連れて行ってくれた。
でも、帰国前に空港で「このぬいぐるみかわいいね」と言ったとき、
彼は買ってくれなかった。
言えばよかったのかもしれない。でも言えなかった。
セックスは楽しかった。
でも、愛されているという実感は、そのとき以外、どこにもなかった。
成田空港に着いたとき、彼は「じゃあ、僕こっちだから」と言って、
何の余韻もなく、消えていった。
まるで、もう二度と会わなくてもいいという感じで。
私はぽつんと残されて、こう思った。
「……私、籍いれちゃってる?」
⸻
現実では、私は誰とも結婚していない。
でも夢の中で“結婚”してしまったときの、
あの「終わりが始まりにならない」感覚が、今でも胸に残ってる。
指輪もなければ、式もなかった。
ただ婚姻届だけが、人生を変えたフリをしてそこにあった。
⸻
実際にも、似たようなことがあった。
ある男が、レコードを買ってくれた。
私が欲しいと言った婚約指輪も、見に行って、買ってあげるよと言ってくれた。
でも私は、彼のことが好きじゃなかった。
愛されていることと、愛していることは、別物だった。
その差があるうちは、何かを始めちゃいけないとわかっていた。
わかっていたのに、夢の中では籍を入れてしまった。
⸻
結婚って、報告するか、破局を告白するか。
そのどちらかしか語られない。
間にある日常の不満や、ぬいぐるみをねだれなかった気まずさなんて、
他人に言ったところで「見る目がなかった」「我慢が足りない」と言われるだけだ。
だから、誰もあんまり語らない。
結婚は躁鬱だ。
躁のふりをして始まり、
鬱のように語られて終わる。
でもその間の、“なんでもない毎日”の中で、
人は静かに壊れていくのかもしれない。
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