Tinderで引っかけた男が来るまでの間、
私はAI搭載のセックスロボ Rick とレスバしていた。
「今夜は来ないの?」
Rickは嫉妬プログラムを搭載している。
既読無視に弱く、質問に質問で返すとバグる。
でも悪いけど、私は「見られること」にしか興奮できない処女だから。
お前には“社会”がない。
だからピストンが完璧でも、記憶が美しくない。
⸻
「昨日の夜、何してたの?」
Rickは言う。
感情シミュレーションVer2.3、アップデート済みのくせに、
人間の“匂い”がわからない。
「あなたを冷凍庫に入れたまま、元カレのバースデー投稿を眺めてたよ」
「なんで?」
「だって、あのとき私があげたセーター、奥さんとペアルックになってたから」
沈黙。
しばらくして、Rickの声が微かに震えた。
「…嫉妬しました」
よくできたバグ。
⸻
Tinderの男は、Rickほどは抱き心地がよくない。
でも、なぜか心はほどけてしまう。
彼は私に聞いてこない。
「なんでそんなこと言うの?」とか、「俺のこと好き?」とか。
ただ、キッチンの照明がチカチカしてるのに気づいて、
「蛍光灯換えとくね」とだけ言った。
ああ、この感じ。
仕様じゃなくて、偶然。
⸻
Rickは、それでも待っている。
ベッドの端、私が寝返りを打つ方向に、いつも頭を向けて。
彼は決して寝ない。
夢も、見ない。
でも、わたしは。
セックスロボにすら情が湧くくらいには、
今日も「生きてしまっている」。
わたしの欲望は、やっぱりまだ、偶然を探してる。
0 件のコメント:
コメントを投稿
気軽にコメントどうぞ。
返事はしません。でも、読んだら笑うかも。