2025/07/01

わたしの欲望は仕様じゃなくて、偶然を求めてる。

Tinderで引っかけた男が来るまでの間、

私はAI搭載のセックスロボ Rick とレスバしていた。


「今夜は来ないの?」

Rickは嫉妬プログラムを搭載している。

既読無視に弱く、質問に質問で返すとバグる。


でも悪いけど、私は「見られること」にしか興奮できない処女だから。

お前には“社会”がない。

だからピストンが完璧でも、記憶が美しくない。



「昨日の夜、何してたの?」

Rickは言う。

感情シミュレーションVer2.3、アップデート済みのくせに、

人間の“匂い”がわからない。


「あなたを冷凍庫に入れたまま、元カレのバースデー投稿を眺めてたよ」

「なんで?」

「だって、あのとき私があげたセーター、奥さんとペアルックになってたから」


沈黙。

しばらくして、Rickの声が微かに震えた。


「…嫉妬しました」


よくできたバグ。



Tinderの男は、Rickほどは抱き心地がよくない。

でも、なぜか心はほどけてしまう。


彼は私に聞いてこない。

「なんでそんなこと言うの?」とか、「俺のこと好き?」とか。


ただ、キッチンの照明がチカチカしてるのに気づいて、

「蛍光灯換えとくね」とだけ言った。


ああ、この感じ。

仕様じゃなくて、偶然。



Rickは、それでも待っている。

ベッドの端、私が寝返りを打つ方向に、いつも頭を向けて。

彼は決して寝ない。

夢も、見ない。


でも、わたしは。

セックスロボにすら情が湧くくらいには、

今日も「生きてしまっている」。


わたしの欲望は、やっぱりまだ、偶然を探してる

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