2025/07/31

会ったことのあるフィクション

 東京で出会った彼女は、私より24歳上だった。

親子ほど年が離れているのに、彼女は妙に少女っぽくて、ちょっと痩せすぎていた。

だけど、可愛い。若い頃は相当綺麗だったんだろうな、と思わせる何かがあった。


「関西の方ですか?」と聞くと、

「ちがうちがう。でも大阪でも働いてたことあるねん」

と、ふわっと笑う。


「東京には仕事で?」と聞くと、

彼女は笑いながら、でも目だけは遠くを見てこう言った。


「いややわ、男を追いかけてきたに決まってるやん」


それが、すごくかっこよかった。

噂によると、その男とやらは俳優らしい。


詳しくは聞かないけど、彼女はいつも断片的にドラマなような恋を話す。


結婚してた男にお金を使い込まれてて、離婚裁判が大変だったとか。


周りの男性に最近なんか綺麗だねと言われて、

年下の男から妙なアプローチを受けてて、かなりその男を気に入ってるとか。その男が頻繁に会いたがらないのもまた良いとか。


次会った時に、年下の男とはどうなったんですか?って聞いたら

「なにそれ?なんの話?」

と本当に忘れているのか、思い出したくないことがあったのか忘れたような反応をされた。


転職に成功したって言ってたから、

ちょうど自分のドリンクが無くなったので、お祝いで一杯ご馳走しますと言って、ご馳走させてもらった。


親子ほど年下の私に“悪いね”って言うけど、2回くらい次は払うねって言ったのに、いまだにその“次”は来ない。


でもまあ、地獄から這い上がってきた女って、だいたいそういうもんかもしれない。


ずるくて、ちょっとだけ、かっこいい。

2025/07/30

工業用アルコール劇場

物件紹介の仕事をしてた頃、電話を取った。

店舗を探しているので広告をみてたまたま電話をしたと言うおじさんだった。


とりあえず、どんな条件で探しているかヒアリングし、また連絡をすると言って切った。


私は勤めて間も無く、そんなにたくさんの仕事がなくて暇だったから、そのおじさんに2回くらい営業の電話を掛けた。


そしたら、ある日突然会社に来た。

おじさんは一人店主の小さな酒場をやっていて、移転したいと言っていた。

そして、コンサルの先生が12月にこの方角の地域に店を構えろというからそれに従うと言っていた。


こんな小さな店でコンサル?

人を数人雇うようになってから入れた方がいいのでは?と思ったが、適当に聞き流し、とりあえず希望条件の店舗を提案した。


手続きのために何度か会った。

ある日、おじさんは

「なんか悩み事とかある?」と聞いてきたので、

「まあ、それなりに。」と適当に返した。

そしたら、このコンサルの先生いいよ。と名刺をくれた。

あとでその名刺のQRコードを読み込むと、占い師のHPに繋がった。

しかも、系にクリスタルをぶら下げて運命を読むというかなり怪しいものだった。

YouTube動画もあり、明らかに手で揺らしているのに、揺れてる揺れてる!って占い師が騒いでいる動画もあった。


ああ、おじさん、騙されてる。と、思った。


そのおじさんはおもしろい男性だった。

若い頃は、九州のリフォーム会社に勤めていたらしい。

新入社員に犯罪者顔の男性が入社してきたので、よく営業に連れて行って

「こいつ、最近ムショから出てきたんです。

おめえ何やったんだ?ああ?放火か!」

と言うと客は怯えてみんな契約してくれたと言っていた。


そして、おじさんは若い頃に付き合っていた女性が居たが喧嘩して別れてしまったという。

そして、その女性は妊娠していたけど、おじさんに告げず、一人で出産し、知らぬ間に息子がいた事を最近知ったと言っていた。


見知らぬ息子はある街で寿司屋になっていたらしい。

どうしても会いたくて、会いに行ったらしい。

店に入るなり、いきなり、

「お前の父親だけど、たかし(仮名)か?」

と聞いたけど、寿司屋の男には人違いだと言われて、気まずくなってすぐ店を出てしまったらしい。


後日、よく見たら違う寿司屋に行ったことに気づいたと言っていた。


おじさんの居酒屋にはアル中の客がよく来て、

みんな手が震えていると言っていた。

「工業用のアルコールみたいな酒しかださないからね!」

と、笑っていた。


だからおじさんが華々しく店をオープンしても行かなかった。

再開発で家賃が上がったのか、チェーン店に押し出されたのか、

気づいたら、おじさんの居酒屋は消えていた。

2025/07/29

『ひとくちちょうだい』に、文化と孤独が詰まってる話

「ひとくちちょうだい」って、なんなんだろう?


最近、食い尽くし系夫のポストがXで流れてきて、思い浮かんだ4つのエピソードを書いてみた。 

記事リンク:


日本は痩せ型の人が多いけど、根は食いしん坊な民族だと思う。

グルメ番組にグルメ漫画、コンビニスイーツの新作、食べログの星、食土産。

“食”をめぐる会話で、私たちはどれだけ日々をやり過ごしているんだろう。


そしてそれは、言葉にもにじみ出ている。

「食べ物の恨みは怖い」

「食卓を囲む」

「同じ釜の飯を食った仲」


日本語って、食を「ただの栄養補給」じゃなくて、

人間関係そのものとして扱ってるんだと思う。


つまり、食べ物を共有するって──

・愛情

・信頼

・礼儀

・記憶

・絆

これ全部がセットになってる。


食べるという行為は、娯楽であり、癒しであり、自己表現であり、他者とのつながりでもある。

だからこそ、それを「奪う」とか「独り占めする」とか、「値踏みする」って、

地味だけど、確実に人を傷つける。


私も子どもの頃、エスカルゴを独り占めして親にめちゃくちゃ怒られたことがある。

“もらい方”にも、“もらわせ方”にも、品と気配りが要るのだと、そのとき学んだ。


だから食い尽くし系夫のポストには怒りを感じるし、

「妻がカロリー計算できてなくて、量が足りないんじゃないか」みたいな反論には、

もうその瞬間から冷めてしまう。


もちろん、逆のパターン、

妻のDVで、夫や子どもがまともに食べられてないケースもあるだろう。


でも結局のところ、

食べることは“心の体温”を測る行為でもある。


・この人と一緒に食べたいか?

・安心して口を開けられるか?

・一口を分けたくなる相手か?


食べることは、生きること。

でも「どう食べるか」は、誰と生きるかを映している。


一口の交換に、私たちはいつも、

愛と欲と、孤独を込めている。


奪われたのはポテトじゃない。“ひとくち”ぶんの優しさだった。

2025/07/28

ひとくちちょうだいは言わない

パリ留学中に出会ったお友達で、細身なのに、恰幅のいい私より大食いなゆきこちゃんという友達がいる。気持ちよくいっぱい食べるから一緒にごはんを食べると、楽しい。


ある日、パリのマルシェみたいな場所でアフリカ料理を食べることになった。


私たちは同じメニューを選んだ。

すでにできあがった料理を大皿からザッと盛りつけて提供する店で、それがいちばんおいしそうに見えたから。


パリの人は雑だ。トレーから料理をがばっとお皿にのせ、乱暴なほどの勢いでテーブルに運んでくる。


ゆきこちゃんの皿には卵がのっていた。

私の皿には、それがなかった。


「シコちゃん、卵の部分ないね? この部分だけ半分こしようか?」

そう言ってくれた。

断ったけど、何度も聞いてくれた。


すごく優しい子だなと思った。


私は、“運の偏り”を、そのままおいしく平らげた。


ゆきこちゃんは「ひとくちちょうだい」を滅多に言わない子だった。

言っても、お互いに違うワインを頼んだときに、少し味見し合うくらい。


私も食いしん坊だからこそ、「ひとくちちょうだい」は仲の良い子にしかしない。必ず、交換条件で。


今、ゆきこちゃんは日本に一時帰国中。

「会おうね」って話してるけど、会えるといいな。


久しぶりに、優しい偏りを分け合いたい。

2025/07/26

ネットで会ったクソ女とはもう友達にならない

今年、女友達をブロックした。SNSもLINEも、全部。もういいやって思った。


彼女は、私のブログや音楽のファンだと言ってくれた。Twitterに「自分の音楽が人気なくて悲しい」って呟いたら、応援DMをもらい、なんとなくそこから交流が始まった。最初に「会いたい」と言ってきたのは、彼女のほうからだった。出会った頃は、よく失恋しては泣いていた。ヒップホップが好きで、LINEでふざけたビーフを飛ばしてきたりして、たまに私も乗っかってディスり合った。下ネタも悪口もジョークにできる関係って、なんとなく信頼みたいなものがある気がしていた。


ファンと言ってくれたけど、共通の話題も多くて別に上下関係があるわけじゃなく、普通に友達だと思ってた。



ある日、Twitterのスペース(通話機能)でみんなで話してたら、ヒップホップイベントに誘われた。私はラップ畑ではなかったけれど、彼女が「生きた証が欲しい」と言ったから、まあやることにした。結局オーガナイザーが失踪してイベントは中止になってしまったけど。

でも、私たちはトラックも作って、リリックも書いた。私は1つだけ仕上げたいものがあったので、「一緒にやろう」ではなく、「ひとりで完成させてもいい?」と聞いたら、彼女も「やりたい」と言った。でも録音や練習の予定は一度も立たず、なんとなく立ち消えた。


「ああ、彼氏ができたり、結婚が決まった瞬間から、どうでもよくなる女って本当にいるんだな」と思った。

これがヒップホップを語る彼女が教えてくれた”リアル“だった。



彼女の結婚が決まったと聞いたとき、嫉妬はなかった。何度も恋に破れて泣いていた姿を知っていたし、幸せになってほしいと思った。ただ、少し寂しくはなった。「結婚したら、もうあまり遊べなくなるのかな」と。


でも、入籍後まだ親しい交流があった。ただ、挙式後の彼女は、少しずつ変わっていった。


結婚前に、以前彼女が好きだった男子が好きな文筆家が、私の知り合いだったこともあって、私を経由してその文筆家と会わせてほしい的なことを言われたことがある。その好きな男子との話題作りのために。知人の文筆家に全くメリットがないので、適当に流しておいた。しかも彼女は「この男子に会ったら、あなたも彼のこと好きになっちゃう。」とも言ってきた。会いたいなんて言ってもないし、思ってもないのに。


彼女はよく「高学歴・低収入の男性が好き」って言ってたし、

私は昔から「ある程度経済力のある人じゃないと無理」って話してたから、好みがまったく違うことは、彼女も知ってたはずなんだよね。


そして彼女は、結婚が決まった彼(今の夫)を彼女の友人達に会わせてる話をして、「でも、あなたは変人だから彼と私の関係を壊すかもしれない、だから会わせられない」と言ってきた。何それ?こっちは頼んでもないのに勝手に妄想されて、それで拒否されるって一体なんなの?

さらに「でも、彼にあなたのことを話したら、面白がって、一番気にしてた」とか言われて、全く意味がわからなかった。

彼女にとって私は、会わせるには不安だけど、ネタにするにはちょうどいい“変人”だったのかもしれない。


むしろ私は、私のことを他人にどこまでペラペラ話してるんだろうって、不快だった。

色々と締まりが悪いし、口も軽いからいろんな人に言ってたのかな?

だから私もあんたのこと、ブログに書くね。

あんたが面白がってよくみてた統失垢とか非常識ママ垢みたいなコンテンツになってうれしいんじゃない?


ほんとは一度仲良かった子のことこんな風に書きたくなかったよ。

だけど、あんたが言うように私は変人だから書く。



最初は結婚式は挙げないと言っていたから、入籍した年の彼女の誕生日プレゼントはいつもより豪華なものを贈った。彼女の好きなブランドのheaven by Marc Jacob のブレスレットだった。


その後、結婚式を挙げることになったと報告され、ぜひ着物で参列してと言われた。私もおめかししたかったのもあるし、着付けと準備で3万円以上かかったけれど、祝福の気持ちを込めて、ご祝儀も贈った。


なのに、その後の私の誕生日には、デリケートゾーン用のソープとローション。たしかに良いブランドではあったけれど、私は誕生日に“洗え”って言われてる気がした。


挙式の後の彼女の誕生日には、リクエストを聞いた上でヘアアクセをプレゼントしたら、「アリエク?w」なんて聞かれた。人から贈られたものに「これSHEIN?」みたいな反応、普通はしない。私はあなたの結婚を心から祝ったし、見返りなんて求めていなかったけれど、それでもこれは、軽んじられたと感じた。



去年の彼女の誕生日は、もう不快すぎて「会うのはちょっと無理だから、プレゼントは郵送でいい?」と伝えたら、「私、何か悪いことした?」と返ってきた。


入籍後はまだ親しい交流があったが、彼女の挙式後、ほとんど誘いがなくなったのに、誕生日だけは「会って渡す」前提になっていた。だけど私はもう、彼女の誕生日を祝うテンションではなかった。正直、あのデリケートゾーン用のソープで完全に萎えていたし、会って渡すほどの絆がまだあるのかもわからなかった。

だから、「郵送でいい?」とこちらから切り出した。

それはただの気遣いじゃなくて、もう食事すらご馳走したくないと思ってしまったからだ。誕生日はいつもご馳走しあっていたけど、友情のバランスが崩れた今、それすらも重たかった。


だから、言葉を選んで、正直に全部伝えた。入籍後の誕生日に気遣ったこと、彼女のアリエク発言、私のDJイベントには一度も顔を出さないこと、プレゼントの選び方、その軽んじられた感じ。彼女は謝ってきたし、弁解もしてきた。でも、そこで私の中の何かが決定的に終わってしまった。


その後、一度だけ会った。彼女の誕生日プレゼントを渡すためだけに。

それから私は、いろいろと葛藤した。でも、もう無理だと思って、彼女のアカウントをすべてブロックした。


私は、自分が少し風変わりな人間だという自覚がある。多少のことを笑い話にされるくらい、気にはならなかった。

人間関係は、そんな“茶化し”のバランスで続くこともある。

でも、彼女の浅ましさだけは——どうしても、笑えなかった。



共通の親しい友人がいるわけでもない。私を式に呼んだのは、人数合わせでも、義理でもない。ただ「手元に置いておきたい」何かだったのかもしれない。便利な誰か。祝ってくれて、話を聞いてくれて、ちょっと変わってて面白くて、でも自分の新しい世界には連れていかなくていい相手。


だけど私は「都合のいい女友達」じゃない。感情のある人間だ。


私に切られたことを恥ずかしいと思っていてくれたらいい。できれば、いつか本当の意味で恥じてくれたら、もっといい。


結婚後も、昔好きだった男のSNS、よくネトストしてたよね。

だから今でも、私のブログ、読んでるといいなと思ってる。

だってあなた、いつも「自分がどう見られるか」ばかり気にしてたじゃない?

育ちがいいとか、趣味がサブカルなだけとか、それっぽい要素だけ並べて、常識人のフリをしてたけど、

あなたがバカにしてた統失垢の妄言より、

その無自覚な浅ましさと卑しさのほうが、よっぽどヤバいと私は思うよ。


ただ、私の相談とか話したいことを聞いてくれたことには感謝してる。

私にもあなたを傷つける何かがあったのかもしれない。


でも私が彼女に傷ついたことを伝えたとき、謝罪と弁解の言葉はあったけど、結局は自分の気持ちばかり優先の発言が多かった。


もう、誰の結婚式にも誕生日にも行きたくない。

このクソアマのせいで、祝う気持ちそのものが腐ったから。


でも、

葬式には呼んで。

お前の六文銭、盗んでやるから。



彼女と昔、旅行に行って、飛田遊郭のすき焼き屋で瓶の烏龍茶をそれぞれ頼んだら、彼女が「今からめっちゃせこい事していい?」と私に聞き、既に持っていた飲みかけのペットボトルに、残った瓶の烏龍茶を継ぎ足していた。「男の前では同じことするの?」と聞いたら、「しない。」と言っていた。


結婚生活、長く続くといいね。



私は彼氏と鶯谷のラブホに行ったとき、エントランスに「ご自由にお持ちください」と、うまい棒が大量に置かれていたので、一気に15本くらい持って行ったら、受付のババアが「えぇ〜!?」と声をあげていた。彼氏も「お前実家裕福なんだろ、やめろよ」と言ってきたが無視した。その場で何本か食い、残りはママにあげた。親孝行🎵


彼女の結婚式で配られた“雑誌風の式次第”は、中野のまんだらけに持ち込んだが、「こういうのはちょっと…」と断られた。

結局、メルカリで800円で売り出してみたが、未だに“いいね”すらつかない。


※8月1日追記

「メルカリで売った」は嘘です。

クソ女が検索して発狂すればいいな〜と思って書きました。(関係ない読者も「え、そんなヤバいもの売ってる?」って検索したでしょ?浅ましいねぇ。)


ちなみに式次第はまだ家にあるよ。

そのうち、タコシェのフライヤーコーナーにそっと遺棄するかもしれない。

ひとくちちょうだいで、優しくなれるなら

高校の同級生に、小柄で甘えん坊な子がいた。

下の名前は忘れてしまったけれど、苗字から取って、Iちゃんと呼ぼう。


Iちゃんはよく、誰かに抱きついていた。

すごく仲がいいわけでもない私にも、時々、抱きついてきた。

人懐っこい子どもみたいで、かわいかった。

でも私は、人に触れられるのがあまり得意じゃなかったから、少し困った。


ペットボトルを持っていると、Iちゃんは必ず「ひとくちちょうだい」と言ってきた。

絶対に知っている味のお茶でも。

飲むのはほんのちょびっとで、なぜひとくちもらうのか、最初はよくわからなかった。

でも、彼女はいつもちゃんと「ありがとう」と言っていた。

高2のとき。

担任の先生が、Iちゃんがいない教室で、彼女のお父さんが亡くなったことを伝えた。


Iちゃんのお父さんは、殉職がありうる職業の人だった。

けれど、それではなく、長く闘病して亡くなったことが、なんとなくわかった。

Iちゃんの家には、ずっと病気のお父さんがいた。

家のなかは、きっと張りつめていたのかもしれない。

お母さんに甘えることなんて、できなかったのかもしれない。


だからせめて、学校だけは——

天真爛漫で、無邪気な子どもでいたかったのかもしれない。

Iちゃんは、いろんな子に「ひとくちちょうだい」と言っていた。

でもそれは、決まってペットボトルの飲み物だった。

お弁当やお菓子には、ほとんど言わなかった。


飲み物だけ——

きっと、それ以上を求めたら、嫌われるって思っていたのかもしれない。

ほんのひとくちで、“つながっていたい”と願っていたのかもしれない。


いま思えば、あの「ひとくち」は、

飲むというより、「確かめる」行為だったのかもしれない。


私はここにいてもいい?

あなたは、私を拒絶しない?

ちょっとだけ、あなたのものを分けてくれる?


そんなふうに。

たったひとくちの水分で、それを確認しようとする人がいる。


この世界で、私たちは、どれだけの優しさを持てるだろう。

2025/07/25

ひとくちの地獄

大学2年のとき、中学の同級生の訃報メールが届いた。

あんなに生命力があった子が、どうして?

悪い冗談かと思って、何人かに電話をかけた。けれど、どうやら本当に亡くなってしまったらしい。


夏だった。

お葬式場に着いた瞬間、涙が止まらなかった。

でも泣いていたのは、私だけだった。


まわりの19〜20歳の子たちは、

「摂食障害だったんだって。ベッドで寝てると思ったら、息してなかったらしい」

「親が悪いよね」

と、大人みたいな顔でご両親を批判していた。


あのときは本当に悲しかった。

けれど大人になった今、思ってしまう。

——カルマだったのかもしれない、と。


彼女は、とても卑しい子だった。



中学を卒業しても、定期的に遊んでいた。

高校時代、ケーキ屋さんに行ったときのことをよく覚えている。


彼女は「ひとくちちょうだい」と言って、私のケーキにフォークを伸ばし、

大きなかけらをもぎとった。

私も同じようにやり返すと、

「取りすぎ!ケーキ崩れるじゃん!」と逆ギレした。


大学になって、料理教室に一緒に通ったことがある。

私は大きなシナモンロールを4つ、彼女はマカロンを20個以上焼いた。

「シナモンロール1個と、マカロン1個、交換しよ」

そう言われたが、断った。


終電が近かったのに、彼女はのんびり歩いていた。

私は黙って、ひとりで駅まで走った。


その夜、彼女からたくさんの文句メールが届いた。

でも私は、

「アスペ乙」

とだけ返し、それきり返信をやめた。



彼女は、ドーナツを配っている店を見つけると、

「並ぶだけ並んで、ドーナツ貰ったら逃げよう。」

と提案してきた。


男性の自慰行為を見せられるバイトをしていた。

出会い系で、男に食べたいレストランに連れていってもらい、

食後に「お父さんが迎えに来るから」と立ち去っていた。


いつも「どうすれば自分が得するか」しか考えていなかった。



彼女には、憧れのブロガーがいた。

その子みたいに、かわいくなりたかったんだと思う。

服もメイクも真似していた。

「高学歴の彼氏が欲しい」などと話していた。


中学時代は、先生や友達に平気で傷つけることを言っていた。

仲の良かった私でさえ、一度ひどい裏切りをされた。


交換はいつだって不平等だった。

奪い、騙し、すり替え、そして笑っていた。


ある日、彼女は摂食障害で亡くなった。


けれどある日、彼女はこう言った。

「この前、ハイスペ男子に漫画喫茶に呼ばれてさ、口で抜かされて終わりだった」

なんとも言えない表情だった。

私は苦しくて、何も言えなかった。



どれだけ食べても、満たされない人がいる。

私はそれを、餓鬼道と呼んでしまった。


彼女が地獄に落ちていないといいな、とは思う。

—————
※追記
多くの摂食障害の方は、彼女のように卑しいわけではありません。
迷惑をかけまいと、静かに、こっそり過食嘔吐を繰り返している人もたくさんいます。

彼女が亡くなったあと、彼女のSNSを見返して気づいたことがあります。
食べ物の話ばかりだった。
摂食障害の方のSNSには、異様なまでに「食の記憶」が残っていることがあります。

また、過食嘔吐をしている人の多くは、
体は痩せていても、顔だけがふっくらと浮腫んで見える傾向があります。
私たちはそれを「丸顔」「童顔」などと言って、見逃していた。

当時は、摂食障害という病気自体の知名度も低く、
誰も気づけなかったし、誰も気づこうともしなかった。

もし、あなたの近くに、似たような兆候のある人がいたら、
どうか静かに、でも確かに、手を差し伸べてあげてください。

2025/07/24

女暴力教室 ひとくちちょうだい

私の通っていた女子校は、古風な校風だった。

お昼の食事は、原則としてお弁当。

だけど私は、よくカップラーメンを持っていった。


机をくっつけて、7人くらいでご飯を食べていた。

みんな母親の気配が詰まったお弁当を開く。

私は一人、お湯を注ぎ、「さて」とカップ麺に手を伸ばした。


「おいしそう」「いいなあ」

犬がおやつを見るような目。

つい「ひとくちいる?」と言ってしまった。


すると、5人くらいが「私も」「私も」と手を出してきた。

最初にひとりにあげた手前、ダメとは言えず、

私のカップ麺は、女たちの口元を順に回っていった。


その時間が、とても長く感じた。

じっと待つしかない。手持ち無沙汰のまま、私の麺は冷めていく。


私は、本当に仲のいい子となら食べ物の共有も気にしない。

でも、顔見知り程度の子たちに順番に食べられるのは、正直、嫌だった。

それに、カップ麺なんて、5人に配ったらもうほとんど残らない。


ようやく戻ってきたカップ麺は、ぬるくて、スープは薄まり、麺は少なかった。

ひとくちあげただけだけど、食べた気がしなかった。


だけど1人だけ、返してくれた子がいた。

「もらったから、私のお弁当食べて」と。

断ったが、押しつけられた。


シャケフレークが乗ったごはんは、他人の家庭の味と雑菌の味がした。

おいしくなかった。でも、返すという心だけは、うれしかった。


そしてもう一人、唯一「欲しい」と言わなかったのがTちゃんだった。

彼女は、自分の大きな家でパジャマパーティを開くような子。

みんなにお土産を配るような子。

私は呼ばれたことがなかったけれど、

その日、彼女が「いらない」と言ったのは、遠慮でも、プライドでもなく、

思いやりだったんじゃないかと思う。


ひとくちちょうだい。

時にそれは、暴力になる。

私も食いしん坊だからわかる。

でも、“ひとくち”は、“信頼”とセットじゃなきゃいけない。

2025/07/17

おちんぽエッセイ・リターンズ|栗の花の香り「精子の香る知性に捧ぐ」

ある夏の終わりの夕方、

芝公園の近くを男と歩いていたら、彼が「栗の花の匂いがする。」と言った。


彼は東大卒だった。

専攻は工学系だった気がするけど、読書家で

私の得意な分野のことも詳しかった。


東大卒を鼻にかけている節があり、

常に自分の方が上だと言う意識がありそうだった。


彼は最近よく読んだ本の話をしてくれて、

内容に反応すると

「よく知ってるね。」

なんてふざけたことを言ってきた。


彼に「栗の花ってなんの匂いと一緒か知ってる?」って尋ねてみた。

彼は「知らない。」と答えた。


きっと、地球が学歴だけの馬鹿男を孕ませるために精子と同じ匂いの花を誕生させたんだ、って思った。


そして、今日も、街にはまだ、あの匂いがする。

少しは賢くなった?渡辺くん。

2025/07/16

【最終回】おちんぽエッセイ vol.5|チンポにおててを添えて〜しあわせ南無〜

この前、実家に帰っていたら、

父が股間を押さえながらトイレに駆け込んでいった。


頻尿らしい。

急に尿意を催すらしい。


私には、ペニスがない。

チンポコを押さえることで、尿意が和らぐのか——不思議だった。


トイレから出てきた父に、聞いてみた。

「意味はない」と言われた。


電車でも、大きく股を開いて、ポコチンらへんに手を納めている男性たちがいる。

彼らは、リラックスしているようだ。


チンチンは、男性にとって——

誇りでもあり、恥じらいでもある。


そんなチンポに、耳をあててみる。

波の音がした。


チンとして、ポ。


あの日の詩が、また聞こえた。



前回の記事はこちら💁‍♀️おちんぽエッセイ vol.4|朝顔と朝勃ち

2025/07/15

おちんぽエッセイvol.4|朝顔と朝勃ち〜種を残すということ〜

小学生が朝顔の植木鉢を持って歩いていた。


朝顔って、朝に花を咲かせ、夜はしんなりしてる。

夏の終わりには種をいっぱい残す。

また来年。


男性って、寝起きに勃起するらしい。

初めてみた朝勃ち。

あ、勃ってる。


まるで朝顔みたいだった。

次があるかどうかはわからない。


男って女の股ぐらから泣きながら飛び出してくるのに、また入りたがる。

不思議な生き物。


そこが無様で愛おしい。


射精は人類火星移住計画のためのロケットの残骸。

朝顔みたいにまた咲けたら、うれしいね。



前回の記事はこちら💁‍♀️おちんぽエッセイ vol.3|自由・平等・性愛(フランス革命特別編)

2025/07/14

おちんぽエッセイ vol.3|自由・平等・性愛〜7月14日 フランス革命特別編〜

パンがなければ、股を開けばいいじゃない。

現代における“パン”──それは、愛。


女たちは、男の性欲に火をつける。

恋の放火魔!


ちんぽは、燃えるたいまつ。  

咥えて、火を絶やすな。  

性とは、生殖の革命である。


ちんぽは、喉奥に火を灯す聖火トローチ。

自由の女神とオリンピックの真似事。


女たちは、ブラデリスニューヨークのブラを脱ぎ捨てた!


アンシャン・レジーム(旧体制)を、断頭せよ!


ナイトブラは、拘束具!

ガソリンぶっかけて、火をつけて、燃やせ!


どうか、女たちよ。

自らを、バスチーユに投獄するな!


できればその柔らかい手で、

掴み取れ! 強運とデカチンを!


それが、真の自由──エロスとともにある、未来だ。



前回の記事はこちら💁‍♀️おちんぽエッセイ vol.2|ノンポリでノータリン

2025/07/13

おちんぽエッセイ vol.2 |ノンポリでノータリン「曲がりと、思想と、バランス」


「僕のおちんぽは右曲がりなんですが、どう思いますか?」

おちんぽエッセイvol.1 |チンとしてポ。コメント欄より〜


──そんなコメントが届いたのは、朝顔が朝露に濡れて開いた朝だった。



「ノンポリでノータリン」


日本人は英語を話すと、舌の上から思想がこぼれ落ちる。

Left と Right。どっちも上手く発音ができないからだ。


だけどチンポの話になると

少しだけ右曲がりとか途端に饒舌になる。


女もlululemonのヨガウェアを着て

Balance is everything

ってInstagramのストーリーで叫んでる。


地球というバランスボール。

重力だって少し位置がズレれば変わるのに、

均一ばかり求められる。


右にも左にも傾けない私は、上を目指すふりをして、沈んでいった。

気づけば、地球の核にまっすぐ向かってる。


地球滅亡は止められない。



2025/07/12

おちんぽエッセイ vol.1|チンとしてポ。

なんでもおまんこ。 
谷川俊太郎は地球とファックしてる。 

 私たち女だって実は生活とファックしてます。
 掃除機や車のハンドル。 
トイレの消臭元のジュボ。

全部握って丁度いいと思うペニスのサイズと同じなんです。

だから、俊太郎には嫉妬しない。
だけど、チンポに色んな呼び方があるのには嫉妬しちゃう。 

 子供らしいチンチン。
 固そうなチンポ。
 ちょっとおどけてるポコチン。
 童話のたぬきみたいなチンポコ。
 大きそうなチンボ。

 呼び方によって、なんとなくキャラクターがある。

 おまんこはなんと呼んでも濡れてそう。 

 そんなに簡単じゃないのに。





2025/07/11

女たちよ!デカチンとファックせよ!

フランスは薬局で緊急避妊薬が20ユーロくらいで買える。


ある時、女友達が「昨日、彼氏と事故で避妊失敗しちゃって。緊急避妊薬を買ってもらって飲んだの。すごい悲しかった。彼氏とも色々話し合っちゃった。」と言っていた。


私は、「悲しいのなんかわかる。エマージェンシーピル飲むと、なんかヤリマンの烙印押されたって感じするよね。」って言ったら。同意された。


私も以前飲んだことがある。


ある夜、ヤった男のペニスが一回り小さくて、挿入中にゴムがゆるゆるになって、そのままスルッと外れて、膣に取り残されてしまった。

股を開いて膣の中に取り残されてないか探せと男に命じた。

ベッドの下に物を落として、拾うかのように股ぐらを探す男の姿は滑稽だった。

もちろん、ピル代も支払ってもらった。粗末なチンポコの責任だからね。


小さいチンポは固く、まあ悪くなかったし、創意工夫できる男だったので、セックス自体は悪くなかった。


だけど、腹が立った。小さいポコチンに。

日本での出来事で、病院に行って処方してもらうのがクソだるかった。


こういうことが短小とは起こるから

どうかこのブログの女性読者は、

最低iphone6sの長さとリコーダーくらい太いチンチンの男とファックして欲しい。


あと料理できない男ともしない方がいい。

アイツら創意工夫ってもんがわかってないから。

味噌汁に出汁入れたらおいしくなるよね?

鍋焦がすようなやつが、女の身体も焦がすと思ってんの?

そういうことも知らない男はSEXしてもパコパコするだけ!


リュウジのバズレシピにハマってます!って男もやめた方がいい気がする笑

あれ、創意工夫じゃなくて“テンプレート”だから。

女の身体に対しても、レシピ通りの動きしかしないよ、たぶん。

それに、味の素ふり掛けられるかも(>人<;)


土井善晴はどうだろう?一汁一菜SEX!

丁寧なSEXもいいけど、たまには犯されたい。

女ってそう言う生き物なの。


浮気しちゃいそう〜笑


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免責事項:
※これはあくまで個人の感想です。
※よく読むと「小さいチンポが悪い」とは書いていません。
※批判してくる人は、“創意工夫と誠意のないペニス”を代表してるとみなします。
※本記事は、日本のピル事情と、性における想像力と責任の重要性について書かれた文化批評です。
※全ペニスサイズに向けて、愛と警鐘を込めてお送りします。
※レイプは犯罪です。
※リュウジのバズレシピを愛する男とのSEXの感想聞いてみたいです。
※卵かけごはんに味の素いれると美味しいと思います。

2025/07/10

コルドンブルーには毒婦がよく似合う

海外で出会った、とある駐在夫婦の話。

パーティで、男の方が「あそこにいるのが妻で、夫婦なんです」とだけ言った。

腰が低くて、とても礼儀正しい人だった。


彼はいわゆるエリート。

若くして抜擢され、駐在員としてその国に赴任していた。


ただ、見た目は少し冴えなかった。

というより、彼の態度がどこか卑屈だったせいで、そう見えてしまったのかもしれない。


一度、「僕の会社の同僚が遊びに来ます。よかったら、一緒に食事に行きませんか。僕と違って彼はイケメンです」と、女性複数人のグループチャットにメッセージが送られてきたことがある。


たぶん彼は、同僚に女の子を紹介したかったのだろう。

でも反応に困るメッセージで、誰も返信しなかった。


数ヶ月後、共通の女友達から彼と食事するから来ないかと誘われた。

暇だったし、彼の奢りだと聞いて行ってみた。


久しぶりに会った彼は、まだ若いのに、髪が真っ白になっていた。


話を聞くと、現地で妻が不倫をして離婚裁判中らしい。

証拠を掴んでから動けばよかったのに、問い詰めてしまったせいで、逆にDVを主張され、裁判では不利な状況に追い込まれているという。


しかも、婚姻は日本でしているから、裁判は日本時間でスカイプで行われるらしい。

現地時間の午前2時に起きて、スーツに着替えて、裁判に出ているらしかった。


だいぶ疲弊しているようだった。


彼の妻のことは一度だけ見かけたことがある。

まあそこそこ綺麗な人だったが、気が強そうだった。

ギャハハと笑う姿は、義務教育時代にいた、クラスの“強者”タイプの女子バスケ部を思わせた。


結婚の経緯も聞かされた。

どうやら、正式な交際はないまま、食事だけを重ねていたようだ。

その間に彼女は、他の男性との関係を匂わせてきたという。

会計士の男とデートしているとか、そんな話をわざわざ伝えてきたらしい。


彼は、自分に自信がなかった。

小柄で可愛らしい彼女にどこか憧れのような感情を抱いていたのだろう。


駐在が決まったとき、「あんた私に何か言わなくていいの?」と言われて、プロポーズを決めたらしい。


彼女は、自分の市場価値をよく理解していたのだろう。

けれど、ハイスペックな男たちに本命扱いされなかった。

だから彼で手を打ったのでは──と、彼の話を聞きながら思った。


彼は別居中で、婚姻費用を請求されているという。

それは現地での生活費と、ある有名な専門学校の学費を含んでいた。


ちなみに、彼女が通おうとしていた専門学校は──

あの木嶋佳苗が通っていたことで知られる、名門コルドンブルーだった。

しかも現地の本校。

“本物”のレシピを学ぶには、男の人生ごと煮込む必要があるらしい。


調理器具のように、男は消耗されていた。

2025/07/09

地獄にしか止まらないエレベーター

これは夢の話。

でも、あまりにも現実っぽい夢だった。


それがタワレコだったのか、ディスクユニオンだったのか、よくわからない。

看板は赤と黄色のような気もするし、壁は黒く、フロアには誰もいなかった。

照明は薄暗く、BGMは流れていなかった。

でも私は「ここは音楽の場所だ」と知っていた。


店内で、現実でも知っている既婚男性と会った。もうひとり、田中という知人もいた。

彼らは普通に話しかけてきて、私は普通に対応した。

出口に行こうという流れになり、3人でエレベーターに乗った。


乗り込む直前、私はなぜか、飲みかけのルイボスティーを既婚男性に渡していた。

夢の中で彼は貧乏になっていて、それを気の毒に思った私は彼にペットボトルを渡した。彼は喜んで受け取った。

現実では、彼にふざけたように口説かれたことがある。

私は適当にあしらった。その一回限りでたぶん酔ってただけで、お互いに後ろめたいことは何もない。


夢の中で、

エレベーターは動き出し、何故か途中の階で田中が降りた。

扉が閉まり、既婚男性とふたりきりになった。

ふと猥雑な雰囲気になり、流れでキスをした。

エレベーターは上がったり、下がったりを繰り返していた。

誰も乗ってこない時間だけ、

「今だけならいいよ」

そんな空気が、ふたりのあいだにあった。

“不倫”という言葉が、まだ口にされる前の空気だった。


そして、扉が開いた。


タワレコの制服を着た知らないおばさんが乗ってきた。

でも、私はその顔を本当は知っていた。

かつて結婚しかけた男の、母親に似ていた。

その人は、初対面のとき、私に言ったのだ。

「あなたに息子を取られて悲しい」と。


地獄は、そこから始まった。


エレベーターは、どこに止まっても異形の空間に繋がっていた。

血まみれの床、光らない看板、肉のような壁。

どこかの階では、この世のものではない何かが襲ってきた。

私はアイテムのようなナイフを握っていた。

手裏剣のような形で、力強く握ると自分の手のひらも切れた。

でもそれで、化け物を倒すしかなかった。


一番深い階で、扉が開くと、そこは映画館のような部屋だった。

でも、椅子はなかった。

私はそのまま、エレベーターの中からスプラッタ映画を見せられた。

スクリーンには注意書きが流れる。


「最後まで鑑賞しないと、ペナルティがあります」

「あなたの反応はモニタリングされています⭐️」


私は怯えていた。

でも、怯える私の顔が、どこかで誰かの“コンテンツ”になっていた。

スプラッタ映画は7回分のチケット付きで、あと6回はこの地獄を見させられるらしい。

どうして私が?


エレベータに電車の車内アナウンスのようなものが流れる。


「赤羽経由、平和島行きです」


よく聞く、無機質な声だった。

エレベータは複数機あり、直通と経由線があった。

私は夢の中で直通に乗り換えた。地獄から抜け出したくて。


そういえば——

彼は現実で言っていた。

「妻はアーティストだったんだ」

「独身の頃は、道に落ちたブラジャーを定点カメラで観察する作品とか作ってた」

「でも、子どもができてからは家のことしないし、作品も作らなくなってさ」


私はそのとき、ああこの人は「毒のある女」が好きだったんだ、と思った。

でもその“毒”を、所有したいだけだったんだろう。

母になったら、毒が消えてつまらない? 

それって、あなたが解毒したんじゃないの?


彼はある会社の社長らしかった。

自分の会社で、自分の妻から毒を抜いたのだ。

それで何も残らなかったことを、私に文句として話してきた。



結婚は、地獄のエレベーターだったのかもしれない。

手続きは簡単で、扉はすぐに閉まる。

上か下かもわからないまま、誰も来ない間にだけ、抱き合っていいことになっている。

誰かが乗り込んできたら、すべてが罰になる。

誰かの母親の顔をした店員が、笑いながら地獄を開く。


結婚はどこか違う階層に連れて行ってくれる気がする。

だけど、それは地獄でもあることがある。

2025/07/08

不発パンティー

ロンドンで知り合ったイタリア人の男友達に、すごくモテる男の子がいた。

結構仲が良かったけど、たぶん2歳くらい年上。

話すことが多すぎて、年齢なんて気にならなかった。


どれくらいモテるかっていうと、

パーティでイギリス人の女の子からいきなりキスされちゃうくらい。

そういう現場を、私は何度か見た。


美男子ではなかったけど、

女性を楽しませるのが心から好きなようだった。


以前、彼と私を含む3人の女子、合計4人でマーケットに遊びに行った。

みんなでぶらぶら歩いていたら、

彼が、売れ残ってちょっと安くなった花束を買って、

私たち女ひとりひとりに1本ずつくれた。

余った花は、自分の胸元にさしていた。


書き起こしてみると、すごくキザだけど

全然いやらしくもなくて、むしろウケ狙いでやってるような感じだった。

こんなことする男性がこの世にいるんだ、って感動しちゃった。


ある金曜日の夜、

「何してる?」ってテキストが来て、

「みんなでクラブにいるよ」って返したら、

「行ってもいい?」って言うから、待ってた。


「明日は何するの?」と聞かれたから、

「ハイゲート駅にある、ハイゲート墓地に行くよ。

マルクスの墓があって、60年代に黒魔術が流行ったときは墓荒らしが大量に出たんだって」

って言ったら、

「一緒に行きたい」って返ってきた。


そのときの彼の目は、いつもの友達の目じゃなくて、“女”を見る目だった。


そして、なんとなく告白を匂わせるようなことを言った。

「君には好きな人がいるって、アンドレアが言ってた。

しかも、僕の知ってる人だって」


いつも陽気な彼が、少し怯えているようにも見えた。

彼が私を好きだなんて考えたことなかったから、私は戸惑った。

それに、クラブの爆音の中で、本当にそんなことを言ってるのかもわからなかった。


なんのこと?って顔をしていたら、

「また明日、この話の続きをしよう」

って言われた。


告白されるのかな?って思った。

当時は別に好きな人がいたけど、こいつに鞍替えしてもいいかな、って思った。


次の日、ロゼワインを持ってハイゲート墓地に行った。


念のため、エロいパンティーも穿いていった。

パンティーの色はあえて書かない。

マルクスの墓を見に行ったからって、赤だと思わないでね。


だけど、告白はされなかった。

話の続きをされることもなかった。

キスされるような雰囲気にも、ならなかった。


ちょっとヤれそうな女の顔してみたんだけどな。


NASAは月に着陸してないよ。

本当は、墓荒らしにボコボコにされた土地で撮影されただけ。


人面岩も映ってたけど、あれ、私の怨念。


ロンドンで撮影されたハリウッド映画なのよ。

イギリスだから、爆発なし。



「WORKERS OF ALL LANDS UNITE」パンティーを穿いた私は、誰とも団結できずに帰った。

2025/07/07

ラッキー令和セブン

スクショしたトーク画面が、短冊より長い。


男って、LINEをブロックされたあと、

その女のトーク画面をメモ帳代わりにすることがあるらしい。

ネットでそんな話を見かけて、ちょっとぞっとした。

でも、私にも心当たりがあった。


徳仁が天皇に即位して、恩赦が出たとき、

「え〜、私も恩赦出したい🎵」となり、

それで、そのときブロックしてた全員を解除してみた。

律儀にも、何人も。ひとり残らず。


その日じゃなかったけど、数日後に、

ずっと前にブロックしてた男から、

なんの脈絡もない単語が、ポツンと届いた。


返信したら、ちょっと焦ってる感じがして、

なんか笑ってしまった。


令和7年7月7日。

超ラッキーな今日は七夕。

そんな再会が、どこかで起きてるかもしれない。


恩赦は出ないけどね。

2025/07/06

死化粧がうまくのりますように

自殺するなら、お風呂に入って体を綺麗にしてからがいいなと思う。


清潔で大きな浴槽にザクロの香りのバスソルトを入れて、ゆっくり浸かりたい。

体が十分に暖まったところで、身を起こし、いい香りのシャンプーをたっぷり使って髪を洗い、そのあとは保湿性の高いコンディショナーで毛先のケアをする。

洗髪が済んだら、チーズみたいな柔らかいボディスポンジで石鹸を泡立てて、体を泡で包み込むように優しく洗う。私のデリケートなところはプライベートスペース用のソープでより一層丁寧に。


泡だらけの自分の体にシャワーの雨を降らす。ハンドルは最大値に。強いシャワーの雨が体の汚れや泡だけでなく、自分が犯した罪、悲しみも洗い流してくれるような気がする。


次使う人のために浴槽の水は抜いておこう。


びしょ濡れの体を丁寧にふわふわのバスタオルで拭いて、体から水気がなくなったらいい匂いのボディローションを塗りたくって滑らかな肌をさらに保湿する。


それが終わったら、清楚なパジャマに着替え、洗い流さないトリートメントを髪の毛につけて、ヘアドライする。


身が整ったところで、最後につける香水を選ぶ。香水気狂いの棚から無花果の香りのものを選ぶ。

それを手首に2プッシュくらいしちゃおうかな。


最後に着るものはかわいいとかオシャレなものじゃなくて、楽なやつがいい。

どうせ死んだら脱がされるしね。


でもパンティはド派手に決めたい。

2025/07/05

結婚は躁鬱だった

昼寝してたら怖い夢をみた。


夢の中で、私は結婚した。

ツアーで訪れた南スペイン、アンダルシアのまぶしい街で、

偶然出会った日本人のハイスペックな男。180cm、金融系、高学歴、保険証持参。

ラブラブというほどではないが、彼は私を好きだと言い、私は「まあ、試してみてもいいか」と思った。

好きだったかどうか、正直よく覚えていない。たぶん好きだった。でも信じきれなかった。


婚姻届は簡単だった。

ツアー中の宿の近くにある日本大使館に行って、数枚の書類を出しただけ。

結婚は驚くほどスムーズで、だからこそ怖かった。

変わるはずの何かが、何も変わらなかったから。


彼は旅行中、私を食事に連れて行ってくれた。

でも、帰国前に空港で「このぬいぐるみかわいいね」と言ったとき、

彼は買ってくれなかった。

言えばよかったのかもしれない。でも言えなかった。

セックスは楽しかった。

でも、愛されているという実感は、そのとき以外、どこにもなかった。


成田空港に着いたとき、彼は「じゃあ、僕こっちだから」と言って、

何の余韻もなく、消えていった。

まるで、もう二度と会わなくてもいいという感じで。


私はぽつんと残されて、こう思った。

「……私、籍いれちゃってる?」



現実では、私は誰とも結婚していない。

でも夢の中で“結婚”してしまったときの、

あの「終わりが始まりにならない」感覚が、今でも胸に残ってる。


指輪もなければ、式もなかった。

ただ婚姻届だけが、人生を変えたフリをしてそこにあった。



実際にも、似たようなことがあった。

ある男が、レコードを買ってくれた。

私が欲しいと言った婚約指輪も、見に行って、買ってあげるよと言ってくれた。


でも私は、彼のことが好きじゃなかった。


愛されていることと、愛していることは、別物だった。

その差があるうちは、何かを始めちゃいけないとわかっていた。

わかっていたのに、夢の中では籍を入れてしまった。



結婚って、報告するか、破局を告白するか。

そのどちらかしか語られない。


間にある日常の不満や、ぬいぐるみをねだれなかった気まずさなんて、

他人に言ったところで「見る目がなかった」「我慢が足りない」と言われるだけだ。

だから、誰もあんまり語らない。


結婚は躁鬱だ。

躁のふりをして始まり、

鬱のように語られて終わる。

でもその間の、“なんでもない毎日”の中で、

人は静かに壊れていくのかもしれない。

ぬいぐるみからペニス

ぬいぐるみを持った男が怖い。

特にそれが大衆的なキャラクターであればあるほど怖い。


私が通っていた高校は、小学部からある私立女子校だった。

私は高校から入学した。偏差値は60前半。

すごく賢いわけでもないけれど、みんな落ち着いて、お上品な子ばっかりで少々退屈だった。


この話は普通科の同級生から聞いたものだから、確かじゃないんだけど、たまに思い出して怖くなったり、怒りを感じる。


普通科の授業は、私たちのクラスとはまったく違う先生たちが担当していた。

向こうは体育の先生がアラフォーくらいの男性だった。

何度か見たことあるけど、顔立ちはジャニーズ風で、背があんまり高くなくて、頭のてっぺんが禿げていた。

だけど、女子校だったらアイドル扱いされてたかもしれない。


その先生はうちの生徒と3回結婚してるって言われてた。

3回だけでも驚きだけど、

プロポーズが三者面談で「お嬢さんをください。」というものらしい。


さすがにこの求婚は、生徒たちの間で盛られたんじゃないかと思う。

まだ高校生の娘の進路の話をしに行って、汚いオヤジから結婚させてくれと言われたら、普通の親はキレるだろうし、どこまで純粋な関係だったかなんて、誰も信じられない。


卒業後しれっと若い女と結婚して、妻が年齢を重ねた頃にようやく、その教師の気持ち悪さに気づいて離婚する...そんな流れだったんじゃないかと思った。だから学校もこの教師を処分できなかったのではないだろうか。


そして、一番怖かったのが

その体育教師は車で学校に通勤しているんだけど、ディズニーが大好きで、ディズニーのぬいぐるみを車にたくさん乗せていると言われていた。


私はその車をみたことないけど、

きっと、ディズニーを生徒と親交を深めるツールにしようとしたんだろうなと思った。

グルーミングのため。


この一連の話は、小学部からエスカレーターで上がってきた子から聞いた。


その子は決して、人の結婚を悪くは言わなかった、ただ事実として述べて


「ちょっと変よねえ」

と私に思わせるような語り口だった。

あるいは、まだ幼くて、違和感を言語化できなかっただけかもしれない。


私のいた女子校は、品の良さを美徳としていた。

怒鳴る子もいなければ、陰口を叩く子もいなかった。

でも、それは正しさじゃなかった。ただ、ジャッジしないだけだった。

「変よねえ?」と言いながら、変だと言い切る子は誰もいなかった。


女子校という温室。

そこに中年男教師がぬいぐるみを自分は無害な男という演出のために持ち込んできたのかなって私は感じてしまった。


ぬいぐるみは、無害さのアイコンとして機能する。だからこそ、武器になる。


この時から私は、いい年をした男がぬいぐるみを見せびらかすように持っているのをみると怖い。

下手な怪談の呪いの人形より怖い。


呪いという見えない恐怖より

絶対に女の体に侵入してくる無垢を装ったペニスの方が脅威。

2025/07/04

悪意大好き♡

好意って、ぶつけられても困ることがある。

こっちが何とも思ってなければ、どう返していいかわからない。

たぶん「私も好き」って言ってほしいんだろうけど、

“好き”って感情、単純すぎてつまらない。


理由もなく成立するのが「好き」なら、

それって素敵な感情のようで、案外退屈だ。


しかも好意って、見返りがないと急に怒りに変わったりするでしょ。

あの変身がめんどくさい。だったら最初から悪意のほうがマシ。

だって、殴るつもりで来てるぶん、こっちも準備ができるから。


だから私は、悪意が大好き。


悪意には「バカ」「死ね」みたいな原始的なものから、

知性のにじむ高度な一撃まで、幅と奥行きがある。

「なんかムカつく」っていう原始感情から始まったりするくせに、

ちゃんと原因もある。背景もある。演出すらできる。


ブッダは、悪口は受け取らなければ相手に戻るって言ってたけど、

私はちゃんと受け取る。そして100%の力で殴り返す。

ラッピングを開けて、しかるべき場所にリボンをつけてお返しする。


好意は、誰にでも返せるものじゃない。


でも悪意は、

誰からでも受け取れるし、

誰にでも返せる。


だから私は悪意が大好き。


まるで、感情のプレゼント交換みたいでしょ?


しかも原価ゼロ。

お互いの知性と人生の含蓄によって、中身がぜんぜん違うの。


ね、面白くない?


今年のお中元、お待ちしております♡