2025/07/10

コルドンブルーには毒婦がよく似合う

海外で出会った、とある駐在夫婦の話。

パーティで、男の方が「あそこにいるのが妻で、夫婦なんです」とだけ言った。

腰が低くて、とても礼儀正しい人だった。


彼はいわゆるエリート。

若くして抜擢され、駐在員としてその国に赴任していた。


ただ、見た目は少し冴えなかった。

というより、彼の態度がどこか卑屈だったせいで、そう見えてしまったのかもしれない。


一度、「僕の会社の同僚が遊びに来ます。よかったら、一緒に食事に行きませんか。僕と違って彼はイケメンです」と、女性複数人のグループチャットにメッセージが送られてきたことがある。


たぶん彼は、同僚に女の子を紹介したかったのだろう。

でも反応に困るメッセージで、誰も返信しなかった。


数ヶ月後、共通の女友達から彼と食事するから来ないかと誘われた。

暇だったし、彼の奢りだと聞いて行ってみた。


久しぶりに会った彼は、まだ若いのに、髪が真っ白になっていた。


話を聞くと、現地で妻が不倫をして離婚裁判中らしい。

証拠を掴んでから動けばよかったのに、問い詰めてしまったせいで、逆にDVを主張され、裁判では不利な状況に追い込まれているという。


しかも、婚姻は日本でしているから、裁判は日本時間でスカイプで行われるらしい。

現地時間の午前2時に起きて、スーツに着替えて、裁判に出ているらしかった。


だいぶ疲弊しているようだった。


彼の妻のことは一度だけ見かけたことがある。

まあそこそこ綺麗な人だったが、気が強そうだった。

ギャハハと笑う姿は、義務教育時代にいた、クラスの“強者”タイプの女子バスケ部を思わせた。


結婚の経緯も聞かされた。

どうやら、正式な交際はないまま、食事だけを重ねていたようだ。

その間に彼女は、他の男性との関係を匂わせてきたという。

会計士の男とデートしているとか、そんな話をわざわざ伝えてきたらしい。


彼は、自分に自信がなかった。

小柄で可愛らしい彼女にどこか憧れのような感情を抱いていたのだろう。


駐在が決まったとき、「あんた私に何か言わなくていいの?」と言われて、プロポーズを決めたらしい。


彼女は、自分の市場価値をよく理解していたのだろう。

けれど、ハイスペックな男たちに本命扱いされなかった。

だから彼で手を打ったのでは──と、彼の話を聞きながら思った。


彼は別居中で、婚姻費用を請求されているという。

それは現地での生活費と、ある有名な専門学校の学費を含んでいた。


ちなみに、彼女が通おうとしていた専門学校は──

あの木嶋佳苗が通っていたことで知られる、名門コルドンブルーだった。

しかも現地の本校。

“本物”のレシピを学ぶには、男の人生ごと煮込む必要があるらしい。


調理器具のように、男は消耗されていた。

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