私にはペニスがない。
それはただの解剖学の話じゃなくて、
子供の頃からずっと感じていた“ある種の敗北”だ。
父や兄が立って小便する姿は、
なぜか自由と権力の象徴に見えた。
気軽にできて、誇らしげで、
世界から特権だけ抜き取ってきたみたいな後ろ姿。
私は夜の風呂場で一度だけ練習した。
足を開き、角度を探し、
水鉄砲みたいに飛ばしてみたかった。
でも、飛ばせなかった。
あの日初めて、
私は“女であること”の負け方を知った。
大人になっても、両親はくだらないことで喧嘩している。
父は硬い米が好きで、母は柔らかい米が好きらしい。
母は「硬い米が好きなんて貧乏くさいねえ。備蓄米でも食べれば?」
と、いつもの意地悪な声で言った。
リビングに近づくと、
米の炊き方で戦争みたいに言い争っていた。
私はすかさず口を挟んだ。
「やらけえとかかてえとか、チンポの話?」
と、おどけて。
娘にクソくだらないことを言われて、
二人とも一瞬でどうでもよくなったらしい。
喧嘩はおさまった。
私にはペニスはないけれど、
今日もチンポで、
家庭にちょっとやわらかい政治をやらせてもらってます。
0 件のコメント:
コメントを投稿
気軽にコメントどうぞ。
返事はしません。でも、読んだら笑うかも。