親と一緒に参加したツアー旅行で、添乗員の女性と仲良くなったことがある。
柔らかくて、声のトーンも表情も、ぜんぶ「安心」をかたどったような人だった。
話しているうちに、その人はふと、こんなことを言った。
「…実は、ちょっとだけ“視える”んです」
彼女は、映画『ゴースト/ニューヨークの幻』を見たとき、
あの映画を作った人は、本当に幽霊が見える人なんじゃないかって思っているそうだ。
あるとき、彼女が担当したツアーに、
10歳くらいの男の子を亡くしたことがあるお客さんが参加していたことがあった。
そのお客さんに、バスの中でふと目を向けたら──
隣の席に、透けるような光を纏った男の子が座っていたという。
消えそうな輪郭。でも、そこに確かに「在る」気配。
その姿を見たとき、彼女はもう我慢できなかった。
ツアーの終わりに、こっそり手紙を書いた。
あなたの息子さん、きっとずっと、近くで見守ってくれていますよ──と。
それが正しかったかは分からないけど、
「言わずにいられなかった」と、彼女は言った。
そのあと私は、彼女の「見える」という話が、ただの“ホワホワ話”には思えなくなった。
ほんの一瞬の残像みたいな、やさしいオカルト。
この世とあの世の距離が、少しだけ近づいた日の話。
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