家で糠漬けを作っている男が良い。
仲良くなって、家に招かれる。
そして前菜みたいに、彼の手製の糠漬けが出てきた。
ひとくち、ボリっと噛む。
歯応えと塩気が、やけに鮮やかに広がる。
「なにこの糠漬け。
すごく美味しい。こんなの初めて。」
と言うと、男は得意げに笑って、
「糠漬けって、人の手の菌で味が決まるらしいよ。
もしかして、俺の菌がよかったのかも。」
その瞬間、独身男の部屋の“生活の乱れ”に目がいってしまった。
(この部屋で育った菌って、本当に大丈夫…?)
そう思ったら、急に吐き気が込み上げた。
幸い、糠漬けしか食べていなかったから、
出てきたのは子猫みたいなゲロだった。
糠漬け男は、子猫みたいに私を介抱してくれた。
その優しさが、ちょっとだけ可愛かった。
具合が戻り、洗面所で口を濯ぐ。
ベッドに戻ると、生活じゃなくて“性”の匂いがしていた。
私は、自分の糠床に、彼のナスを漬けてみた。
糠漬けは美味しかったけど、セックスは微妙。
優しい男だから、文句も言えず、
イッたふりをして静かに終わらせた。
彼の家には鏡がなかったので、
台所の包丁の背でメイクを直して帰った。
それ以来、会っていない。
糠漬けの味だけ、妙にくっきり覚えている。———
©️DSH / 2025