相対性理論の曲で1番好きな歌詞は
バーモント・キッスの
わたしやめた世界征服やめた今日のご飯考えるので精一杯
という一節。
子どもの頃、専業主婦の母がよく言っていた。
「毎日ごはんの献立考えるの、疲れちゃった」って。
自分だけのためなら、冷蔵庫の残り物で済ませられる。
でも、誰かのために作るとなるとそうはいかない。
栄養のバランス、飽きない献立、家計のやりくり。
あれこれ考えているうちに、1日が終わってしまう。
この曲は初期のもので、相対性理論のメンバーはまだ二十代前半だったんじゃないかと思う。
だからこそ「世界征服」という夢想と、「今日のご飯」という現実の対比が
あまりに生々しくて、美しい。
彼らの母親たちも、同じように台所でため息をついた日があったのかもしれない。
いまだに「家庭のご飯=女が作るもの」と思い込んでいる社会で、
この歌詞を聴くと胸が痛む。
女の子だって、世界を征服したい夜がある。
でも、明日の献立が頭の中で勝手に動き出して、
その夢をそっと押しのけてしまう。
それでもこの曲は、悲しみだけじゃない。
「世界征服をやめる」ことが、
誰かのために今日を生きることでもある——
そんな二重性が、あの軽やかなメロディとやくしまるえつこの囁き声の裏に潜んでいるような気がする。