パリのホトスファミリーと折り合いが合わず、家を追い出されることになった私はアパートを探していた。
≪Ovni≫という日本語のフリーペーパーがあり、そこで日本の口座に日本円で家賃を払える素敵な物件を見つけた。
私はどうせ一年で帰るからパリで銀行口座を作らなかった。
これなら親に入金を頼めて楽だと思い、大家に入居希望の連絡をしたが断られた。だけど電話で何度も口説いて入居させてもらえることになった。
そのアパートは管理委員会が厳しいので入居するなら履歴書から何まで色々出せと言われたが、立地も広さも家賃も良かったので、すぐ準備した。
そして、アパートの管理人に連絡して一応内見させてもらうことにした。
まだ入居中だったから、前住民の女と連絡を取って日程を決めてくれと言われた。
その女は久保田みたいな名前だった気がする。
内見の時、一応私は礼儀正しくおいしいコーヒーをテイクアウトして彼女がまだ住むその部屋に向かった。
久保田は私より少し年上ぽい、可愛らしい日本女子という感じだったが、部屋がめちゃくちゃだった。
でも部屋は気に入ったので、ここにすると言って、入退去の日程なども話し合った。
ついでにパリで何を勉強しているか聞いたら、哲学だと言っていた。
入退去の日、アパートに行くと久保田が手伝いの友達とまだまだ荷物をあちこちにぶちまけていた。
だから私は引越し作業を手伝ってくれる友達と少し待っていた。
すると、久保田は「はやく荷物入れちゃってくださいよ。」とか言ってきた。
なんか腹が立った。
それで友達に荷物搬入を手伝ってもらい、収納まで手伝ってもらったんだけど、部屋がクソ汚かった。
床を拭くと真っ黒、電子レンジの中はベトベト。洗面所の下の隙間からトイレットペーパーの芯が何本も出てきた。
流石に汚すぎて怒りが沸点に達した。
汚すぎるこの部屋は!と叫ぶと久保田は
ちゃんと掃除何回もしたんですけど...
とオドオドして言ってきた。
このトイレの芯、掃除したようには見えませんけど?!
と言った。それにまだなにか片付けてる。
そこにも荷物入れたいから早くどいてくれと言った。
私の態度に久保田は萎縮し、荷物をそそくさ片付けて出て行こうとした。でも飛行機の時間が遅いので、一時的にスーツケースを置かせてくれと言われたのでそこは心よく了承した。
久保田が去ってからまた部屋をよく見ると本当に汚かった。人に明け渡すレベルの汚れじゃない。
久保田がスーツケースを取りに戻ったら文句言ってやろうと思った。
夕方5時に久保田が荷物を取りにきた。
私も冷静に 久保田さん、この汚れは異常です。大家さんに報告させていただきます。 と強い口調で言ったら、久保田は泣き出し土下座してきた。
なんて安っぽい土下座なんだろうって思ったし、作業の邪魔だからすぐ立ち去れと言って追い返した。
久保田の友達2人が彼女の背中をさすりながら階段を降りていくのが見えた。
哲学する前にやることやっておけよと思った。部屋ひとつまともに掃除できないくせに何を考えているんだ。
後日、管理人の日本語ペラペラのセドリックさんに会って話すと、間抜けな久保田の話になった。
彼も彼女をどこか変だと感じていたらしい。
セドリックさんはこう語った。
久保田は日本のある企業がアパート探しと契約をしてくれるサービスを使って、あの部屋に住むことになったらしい。
久保田のパリ到着初日、アパートに行くと鍵も用意されてないし、管理人にも連絡がつかなかったらしい。それで日本の企業に電話したら、ホテルを用意してもらって後日、ちゃんと入居できたのだが、シェアハウスでもなく1人暮らしという契約のはずなのに、なぜか管理人の女が一緒に住むことになってたらしい。管理人の女は田中みたいなシンプルな名前だった。
久保田は違和感を覚えつつも、とりあえず一緒に生活しはじめたらしい。
セドリックさんは部屋の備品になにかあると、田中に呼び出され、直したり、新しく買い替えたりしてたようだ。
いつも田中と久保田が一緒にいるけど、友達か何かだとセドリックさんは思ってたらしい。
しかし、ある時、久保田がエージェントを使ってこの部屋を借りているとこぼし、田中が久保田に又貸ししている事が判明した。
そう久保田は騙されていたのだ。なにが哲学だよ。
セドリックさんは田中を問い詰め追い出した。
そしてセドリックさんはこう続けた。
田中は結構綺麗な日本人女性だった。仕事もパリを生き抜くため色々やっていて、フランス語もうまかった。
だからどうして詐欺みたいなことするのかわからなかった。だから私立探偵を雇って調べたのだという。
田中は以前パリに来た時、ある男に一目惚れして、パリに住むことにしたらしい。そしてその男に貢ぐために色んな金策を練っていたのだと。
パリはドラマで溢れている。
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